BABY DOLL

 きらきらと輝く香水瓶があ〜ちゃんの部屋にはたくさん並んでいる。これはファンの人たちからあ〜ちゃんがもらったもので、同じようにかしゆかの部屋にも香水瓶がたくさんならんでいる。たぶんのっちの部屋にだってたくさん並んでいるんだろう。
 そんなあ〜ちゃんの大切な香水瓶の中からきらきらしたピンク色の香水瓶のひとつをかしゆかは手にとった。かしゃん、とガラスとガラスがぶつかる音がして、中の液体がきらきらとゆらめく。この香水瓶はまっすぐ置くことができなくて、並べるときにちょっぴりめんどくさい。でも人気があるみたいで、たくさんの人がこの香水を3人にプレゼントした。名前はたしかBABY DOLL。でもベイビードールなんて、あ〜ちゃん―――ううん、あやちゃんのことをいっているんじゃないかとかしゆかは思って、ベッドの中ですやすやと眠るあやちゃんの顔を見つめる。
 そっと顔を近づけると、あやちゃんのからだからはいいにおいがして、それはどんな香水も勝つことのできない特別なにおい、あやちゃんのにおいだとかしゆかは思う。あやちゃんの体を包むパジャマはいつもとてもメルヒェンで、それはあやちゃんそのもので、それからこのにおいもあやちゃんのにおい。
 なんだかおもしろくなくなって、かしゆかはベイビードールの瓶を床に落っことす。落っことしたくらいで香水瓶は割れなくて、ごとりと鈍い音を立てて転がる。不安定なベイビードールの瓶はまるで私たちのよう。
 かしゆかは床にベイビードールの瓶を転がしたまま、そっとあやちゃんの体を揺らす。
「起きて、あやちゃん」
 耳元に囁く。これから私たちはどれだけの時間を一緒にすごすんだろう。その時間はどれくらい続くんだろう。どれだけ私たちは同じ時間を過ごすことができるんだろう。
 あやちゃんが寝返りをうつ。ふわりとにおいが立ち込める。これは眠っている女の子のにおいで特別な女の子が持っている特別なにおい。私だけが知ってるあやちゃんのにおい。
 かしゆかはまだ起きそうもないあやちゃんの隣へとそっとその体を滑り込ませる。ついさっきまで自分が眠っていた場所だから、そのぶんのスペースは空いている。
 ふんわりと感じていたあやちゃんのにおいがきつくなる。
 かしゆかは目を閉じる。
 私たちは血のにおいのしない女の子で、私たちは特別な女の子。
 そのなかでもあやちゃんは一番特別な女の子。
 さあ明日はなにをしようかねえ?
 特別なにおいに囲まれながら、かしゆかは静かに眠りについた。