TOMMY GIRL

 香水の瓶であんまりかわいいものは棚の表側には出さないようにしてる。なんだかきらきらしていて、すこうし気持ち悪いから。前の方にあるのは四角い形をしているか透明な香水瓶ばかりで、あ〜ちゃんが好きそうなキラキラしたような瓶は後ろの方で、ついでにいうと甘い香りもあんまり好きじゃない。好きじゃないというとウソになるけれど、私はやっぱりあんまりそういうのが得意じゃない。なにかを一生懸命考えることや、なにかを覚えること、そういうのは得意じゃなくって、ただ楽しく踊れたり、歌えたりすればそれでいいんだけれど、あ〜ちゃんはそういうことをずっと考えているみたいだった。かしゆかはどうなんだろう。かしゆかはひとりだけちょっぴり大人で、あ〜ちゃんとも違うし、もちろん私とも違う。3人ともぜんぜん違う。好きなものだってぜんぜん違う。それから、あ〜ちゃんかしゆかは私より仲がいい……気がする。気がするだけで本当はどうなのかよくわからないけれど。あと部屋の中の様子もぜんぜん違う。私の部屋はかしゆかの部屋みたいにあんまり整頓されていないし、あ〜ちゃんの部屋みたいにキラキラもしていない。私はあのふたりよりたぶん普通、だと思うけれどよくわかんないし、そもそもそんなことを考えたことがない。ううん、今考えてたけど!
 好きな香水の瓶は青かったり透明だったりするまっすぐな角のある瓶で、すっきりとしているから好き。べたべたするようなのは嫌い。だから気持ちの悪いファンの人も嫌いで、その件に関してはたまにあ〜ちゃんかしゆかに怒られるんだけど、あのふたりのほうが絶対にどこかおかしい。私はアイドルになりたかったけれど、こういうアイドルになりたかったのかはよくわからない。
 のっちはひとつ香水瓶を手に取ると電灯にすかしてみる。透明な瓶の中には透明な液体が入っている。ボトルは四角くなくて、なんだかドリンク剤が入っているみたいな普通の瓶。ボトルには「TOMMY GIRL」って書かれている。そういえば同じ名前の服のブランドも嫌いじゃないんだけど、さすがに洋服はなかなかプレゼントされないなあなんて思ってみたりして、のっちはボトルのキャップをあけると、しゅっと空中に香水を撒き散らす。
 あ〜ちゃんかしゆかはもう寝たかな。私ももう寝なくちゃね。
 そんなことを思いながらのっちは鼻をひくひくとさせて、香りを吸い込む。
 そういや私だけ名前に「香」って入ってないんだよな。それに私だってあやちゃんなのに。
 まあどうでもいいんだけど。
 寝ようっと。